T's Cafe

小さな私の体験が、もしかしたら大きなヒントになる・・・かもしれません。前は学校の先生、今は自適のご隠居とおしゃべりしましょ。

間もなく死ぬ師匠を題材に・・・「去来抄」・「うづくまる・・・」その1

 こんにちは。

 T・たまもです。

 今回は、古文を取りあげたいと思います。

 「去来抄」。

 「去来抄」とは、松尾芭蕉の弟子である向井去来が書いた俳句の評論集です。

 江戸時代の文章なので、わりとわかりやすい。

 今回は、その中から

「うづくまる薬缶のもとの寒さかな」

のくだりを紹介しましょう。

  

 松尾芭蕉は、1694年(元禄七年)旧暦10月12日(新暦11月28日なので、初冬ですね)に大阪で亡くなっています。

 享年五十一。

 現代の感覚だと若いですね。

 芭蕉の臨終間際のできごとです。

 芭蕉は、看病のために来ていた弟子たちに

「夜伽の句」

 を作るように命じました。

 このとき看病に集まっていた弟子たちは、当然ながら高弟たちです。

 夜伽とは、ここでは夜通しの看病のことです。

 つまり、間もなく死ぬ師匠を題材に俳句を作れと言ったわけです。

 すごい人ですよね。

 有名な辞世、

「旅に病んで夢は枯野を駆け巡る」

 は、すでに詠まれていたようです。

 自分自身を題材にしてまで俳句を作らせる、というのは、弟子たちに対する愛情でもあり俳句に対する厳しさでもありましょう。

 なにしろ、そんな経験はめったにあるものじゃないですから。

 しかも、

「私はもう死んだものとして、相談は一切してはならない」

 という条件付き。

 弟子たちはそれぞれ作ったものを発表します。

 

 芥川龍之介に、芭蕉の臨終を描いた「枯野抄」という小説があります。

 それぞれに個性的な弟子たちです。

 が、この夜伽の句とは少しイメージが違うようです。

 まあ、天才芭蕉に複雑な思いをそれぞれに抱く弟子たち、というお話ですからね。

 つづく。