T's Cafe

小さな私の体験が、もしかしたら大きなヒントになる・・・かもしれません。前は学校の先生、今は自適のご隠居とおしゃべりしましょ。

「技術の粋」というものは・・・漢文「公輸削鵲」その2

 こんにちは。

 T・たまもです。

 昨日の続き。

 漢文「公輸削鵲」を取りあげました。

 公輸という名匠が良く飛ぶ鵲を作ったけれど、生活に役に立つものを作るのが名人で、そうでなければ下手くそな職人だ」と言われる話でした。

 生活に役に立たないものを作るのは下手な職人、と言う結論については、私はちょっと違和感がありました。

 言わんとすることはわかるのです。

 が、「用の美」ということを超えて、「技術の粋」というものは、そもそも実用から遠くなってしまうものなのではないでしょうか。

 刃物の技術の粋はおそらく刀剣だと思いますが、江戸時代ならいざ知らず、刀剣は武器だし、気やすく手に入れて生活に使う実用品とは言えません。

 F1しかり、オートクチュールしかり。

「F1カーを作っていた人なんですよ~」なんて整備士を紹介されたら、

「おお!うちのクルマ任せたい!」と思ってしまいそうでしょ。

 

 以前、本場結城紬無形文化財です)の機屋さんがこんな話をしていました。

無形文化財である以上、どんなに高価になっても技術の継承とアピール(職人の技術も、結城紬の可能性も)のために、とんでもない技術をこらした反物を作ります。

 もちろん、そんなもん、そうしょっちゅう作れません」

 金額的にも物理的にも無理だそうです。

 結城紬は普通のを織るだけでも一日数センチの世界ですからね。

「だから、下手に売れても困るので高値をつけます」

 その時一反の反物を見せてくれました。

 家が買えるほどの値段が付いています。

「実はこれ、二反あったんですけど、一反はこの値段でも欲しいって買って下さったお客様がいて」

 どんな好事家でしょう。

「(数年後に)新しいのが織り上がるまでは、残った方に、もう少し高値をつけておかなきゃいけないかなと思ったりするんですよ」

 プライスレス、と言う単語が浮かびましたよ。

 商品である以上、非売品とは言えないけれど、売れても困る・・・って。

 だから、かささぎを飛ばして悦に入っていた公輸を、私は職人さんだなあ、と思ってしまうのです。