T's Cafe

小さな私の体験が、もしかしたら大きなヒントになる・・・かもしれません。前は学校の先生、今は自適のご隠居とおしゃべりしましょ。

こちら側の「夢」は、向こう側の「現実」・・・読書の時間「残月記」

 こんにちは。

 T・たまもです。

 今日ご紹介する本は小説。

 

小田雅久仁「残月記」双葉社


 新聞の書評では

「〈非現実のリアリティ〉が凄まじい」

と、絶賛され、評者に「必読」とまで書かれていました。

 そのせいなのか、図書館の予約は30人越えしておりました。

 実は私は「救いのない話」は、あまり好きではありません。

 「悲劇」

という意味ではなく、

「私が納得がいかない」、という意味での

「救いのない話」です。

 だから、この本に所収されている最初の作品

「そして月がふりかえる」

を読んだ後は、しばらく次を読む気になれなかったのでした。

 で、再開して次の

「月景石」

はちょっと物足りなくて。

 最後の

「残月記」

は、読み通せるかしらと不安になる長さ。

 と言っても中編ですが。

 結果から言うと、「残月記」は良かった。

 ディストピア小説ですからね。

 どんな結末が待っているのかと怯えつつも、ページをめくる手が止まりませんでした。

 そして、「月昂」という死病を抱えた主人公が

「これは最期の夢」と悟るとき、私は安堵したのです。

 それというのも。

 以前読んだ本の中で、

臨死体験は個々人で違う」

と言う話がありましてね。

 そしてその体験は個々人で違うのに「幸せ」というより「悪夢」が多い。

 でも、「月昂者」は、美しい夢から覚めることなく

「安らかな死」

を迎えることが出来る。

 これがファンタジーの真骨頂。

 こちら側の「夢」は、向こう側の「現実」。

 つまり、こちら側の「死」は向こう側の「生」。

 この反転がとても美しく、私には救いだったのです。