語り手である「わたし」は、放送局で仕事をする中年男性で、明らかに作者自身を投影しています。
彼が訪れる「中村畳店」も実在するそうです。
が、ご主人の「中村さん」と、長男の「英夫くん」は、モデルはいるとしても、架空の人物と考えて良いでしょう。
英夫くんは表題のナインのひとり、主人公格と言って良い人物です。
「ナイン、ですから当然あと8人、出てくるはずですね」
と、言うと、指示を無視して先を読む生徒たちなのでした。
まず指示するのは「対比を探しなさい」です。
冒頭で「現代」の私が「昔」の下宿を訪ねるということで対比になっていることを指摘すると、次々に出てきます。
生徒自身で探すことが難しければ、教員の方で
「野球の話題について」
「新道かいわいについて」
「少年野球団について」
「正太郎くんについて」
現代と昔の対比を中心に言わせていくと良いでしょう。
いずれも、現代は希薄な人間関係と軽薄な雰囲気を持ち、昔は濃密な人間関係と地に足のついた生活を営んでいるという共通点が見つかります。
話は戻りますが、ナインの面々は良く数えると8人しか名前が出てきません。
井上ひさしともあろうものが数え間違えたとは思えない。
「投手の英夫くん」、「捕手でキャプテンの正太郎くん」、正太郎に恩を受けた「左翼の常雄くん」がいれば、お話は完結するからかもしれません。
つづく。