こんにちは。
T・たまもです。
昨日は「伊勢物語」の主人公のモデル、在原業平(ありわらのなりひら)のお話を少ししました。
「伊勢物語」のなかの「筒井筒」は、古典の教科書の定番です。
このお話は平安時代の結婚のありかたを検討するのに良い参考になります。
主人公の設定が「行商人」です。
なのに感覚は「貴族」そのもの。
作者と読者は貴族の常識を前提として暗黙の了解がある感じです。
井戸の周りで男女のこだわりなく遊んでいた幼なじみ。
やがて思春期を迎え、お互いに異性として相手を意識し始める・・・。
現代でも良くある恋愛パターンです。
なんといってもここでの相聞歌が、上手い。
筒井筒井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに
比べこし振り分け髪も肩過ぎぬ君ならずして誰か上ぐべき
自分の成長を、男性が背の高さに、女性が髪の長さに託しています。
「あなたが知らないうちに、こんなに成長したんですよ」
というメッセージは、
「体も成長したし、こころ(あなたへの想い)も成長(ただの友達じゃなくて恋になった)した」
ということでもあります。
生徒に受けが良いのは、その甘酸っぱい初恋が実る、ロマンチックさのせいかもしれません。
ヒロインの女は他に縁談があったのに断り続けて主人公の男と結ばれます。
この時代の結婚は基本招婿婚です。
男が女の寝所にやって来て、女が寝所に迎え入れれば恋人関係が成立。
三日通い続けて家族が認めれば結婚成立というとってもお手軽なシステムです。
「縁談」が持ち込まれるということは、最初から家族が「この男なら」と見込んでいるということです。
女の家族にとって「良縁」と思える男、つまり血筋や身分や現在または将来の羽振りがよろしい男のはずです。
そして、主人公の男は縁談の男ほどではなかった、ということになりますね。
あ、ここには「優しい」とか、「美男子」とか、そのような要素は含みません。
結婚を家族が認めるというのは、つまりはその家にとって価値があるか否かが一番の問題です。
認めなければ、いつまでたっても恋人のまま。
本人たちは「愛してる」かどうかが一番大切ですけどね。